撹拌講座 貴方の知らない撹拌の世界

初級コース その6 動力変化で流れが見えますか(後編)

前編では、 入社三年目のマックス君が先輩の質問に対して実に上手に回答していました。
一つは、 「2つの撹拌槽で消費動力が異なる理由」について。
もう一つは、 「撹拌翼の回転数をどこまで上げることが可能か」について、 です。

マックス君は、 「撹拌の3原則」を十分に理解して身につけていたため、 現場で即答することができました。 皆さんも、 撹拌の流動に関する決まり事である「撹拌の3原則」を知ることから始めましょう。

<撹拌の3原則>

原則その1

実機(10m3 程度)では、 かなりの高粘度(1000 mPa・s以上)にならない限りは層流域とはならずに、 慣性力支配の乱流域での流れができている。

原則その2

乱流域での動力は、 インターナル(バッフル等)の影響を大きく受けるので、 バッフル条件を確認する必要がある。

原則その3

乱流域(バッフルあり)条件では、 慣性力支配であり撹拌動力は粘度に依らず、 密度の1乗と回転数の3乗に比例して変化する。

そして、 この3原則は、 図1の「Np-Re:エヌピーvsレイノルズ曲線」が頭の中にあり、 撹拌槽の運転条件から流れがどの領域にあるのかをイメージすることで、 適用の可否を判断できるものです。
それでは、 現場でのマックス君の頭の中を簡単な数式を用いて説明しましょう。

図1 Np - Re 曲線

Np-Re曲線

原則その1 実機スケールでは乱流域での運転が多い。

流体の流れには、 「層流」「乱流」という2つの状態があります。 層流とは、 進行方向以外の速度成分がゼロとなる規則正しい流れであり、 乱流とは、 進行方向以外の3次元方向に速度成分がある不規則な流れを言います。
身近な例として、 水道の蛇口をひねった時をイメージすると分かりやすいでしょう。 蛇口を少しだけひねった場合、 少量の水がまっすぐスーッと流れますが、 大きくひねって水量が多くなった場合、 ジャバジャバと液面が乱れて流れ落ちますね。 前者が層流、 後者が乱流の状態です。

そして、 この層流や乱流という流れの状態を、 Re数(レイノルズ数)と呼ばれる指標を使って数値化することが可能です。 このRe数とは、 撹拌槽内の流れを示す無次元数で、 撹拌槽の内部では流体が流れようとする力=慣性力と、 反対に流れを押しとどめようとする力=粘性力が存在し、 Re数とは慣性力と粘性力の比で定義されます。
ここで皆さんに覚えて頂きたいのは、 Re数を示す以下の公式です。 そして、 撹拌槽の場合には、 このRe数がおおよそ50より小さい場合は「層流域」、 おおよそ1000より大きい場合は「乱流域」である、 ということが言えるのです。

それでは、 前編のケーススタディを振り返ってみましょう。
液量10m3 実機撹拌槽であるR1槽とR2槽の一般的な前提条件を以下とします。 R1槽の粘度は1 mPa・s、 R2槽は100 mPa・sでしたね。 上記の公式に当てはめてRe数を導き出してみますと…
粘度1 mPa・s、 100 mPa・s、 1000 mPa・sの場合でのRe数は、 以下の青字の数値106、 104、 1000となります。

では次に、 これらのRe数を念頭に置いて、 図1のNp-Re曲線を見てみましょう。
ここでのNp値とは、 撹拌翼+槽形状+インターナルを加味した条件での撹拌槽の動力特性を示す無次元数です。 1000 mPa・s以下の粘度であれば、 Re数は1000より大きいことから、 撹拌槽内部は「乱流域」での流れになることが分かります。 そして、 図1の曲線において、 乱流域になるとNp値が一直線になっていることから、 「乱流域では動力Npは一定である」という流動に関する決まり事があることが分かります。

これらのことから、 マックス君は、 「1~数百mPa・s程度の液粘度の違いは動力への影響はない」と判断したのです。 さらに、 粘性変化が動力へ影響しないことから、 非ニュートン流体での見かけ粘度変化もこの領域では怖くないと判断しています。

原則その2 乱流域では動力へのインターナルの影響が出る。

液粘度1~数百mPa・s程度の違いは動力への影響はないにも関わらず、 R1槽とR2槽では動力に大きな違いがあらわれました。 それは、 乱流域では動力はインターナルの影響を大きく受けるという決まりごとがあるためです。 図1において、 層流域では粘性力支配なので、 動力へのインターナルの影響は消滅して1本の線に収束しますが、 乱流域ではバッフル条件で動力数が変化していることがわかります。 マックス君は、 頭の中のグラフからこの影響を即座にイメージできたのです。

原則その3 乱流域での動力Pは、 密度の1乗と翼回転数の3乗に比例して変化する。

最後に、 撹拌翼の回転数をどこまで上げられるかについて考えてみましょう。 流れの分類により、 動力P(kW)への影響因子は以下のように変化します。

回転数nの指数が層流域と乱流域(バッフルあり)では異なりますね。 動力への回転数の影響度合いは、 「層流は2乗」、 「乱流(バッフルあり)は3乗」と覚えましょう。 あわせて、 「回転数を安易に大きく変更することは、 過負荷によるモータトリップ等のリスクが大きい」ことも記憶しておいてくださいね。

いかがでしたか?大まかな撹拌の3原則とNp-Re曲線の意味をセットで理解することで、 皆さんもマックス君のように実機での撹拌槽内の流れを、 動力特性と絡めて評価・判断することが可能になります。 そうすると、 見える世界がぐっと広がるはずです。
ご自分の工場内の撹拌槽がNp-Re曲線のどの領域で運転されているか、 一度調べてみるのも勉強になるのではと思います。 頑張って現場で判断できるエンジニアを目指してください!

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