撹拌講座 貴方の知らない撹拌の世界

初級コース その1 基礎の基礎、 撹拌を理解する3つのポイント

日常生活から製造の現場まで、 世の中には「混ぜる」という行為が溢れています。
ここでは、 この「モノを混ぜる」ということについて、 深く考えてみましょう。

水に小麦粉を混ぜようとした時、 箸で混ぜようとしてうまく混ざらなかったことはありませんか?その時、 あなたはどうするでしょうか?素早くかき混ぜてみる…あるいは時間をかけてダマをひとつずつつぶしていく…人それぞれ、 いろいろなやり方があると思います。

ですが、 それは本当に正しい混ぜ方でしょうか?

確かに時間はかかりますが、 箸でも水に小麦粉を混ぜることはできます。 しかしハンドミキサーを使えば、 より簡単に素早く、 目的が達成できるでしょう。 つまり、 よりよい手段を用いれば、 作業を大きく効率化できるのです。

実はこれは、 「モノを混ぜる」ということ全般において言えることです。 大規模な製造の現場でも、 既存の撹拌設備を最適化するだけで、 生産性・コスト・品質を大幅に改善することが可能になるケースがあります。 あなたの担当する製造ラインの撹拌機は、 本当にその工程に最適なものですか?

今回はこれを念頭に、 最適な撹拌機を選ぶための第一歩として3つのポイントをお伝えします。

ポイント1:
撹拌の目的を知ろう。 - 貴方は何のために混ぜたいのか?

撹拌とは、 「ある目的」のために「ある物」を細分・均質化させる行為です。 混ぜる行為そのものは、 あくまでも手段 - HOW でしかありません。

洗濯機やジューサーも『混ぜる機械』つまり撹拌機と言えるものですが、 目的はそれぞれ「綺麗な衣類」、 「美味しいジュース」と明確です。
また、 装置の名前が目的 - WHAT を表しているので、 その性能・効果が誰にでもわかりやすいですね。
しかし、 産業界で撹拌機と言われているものは、 その目的が希釈・溶解・乳化・反応・分散・昇温・冷却・ガス吸収などなど…実に多岐にわたります。
つまり、 産業用の撹拌機を選定する場合、 「何の為に混ぜたいのか?」を認識し、 その目的をしっかりと定めることが第一条件になるのです。

手段-Howではなく、目的-WHATを見定める

まずは手段-Howではなく、 目的-WHATを見定める

ポイント2:
混ぜたいモノを知ろう。 - 混ぜる前後でどう変化する?

目的が決まったら、 次は「混ぜたいモノ」を明確にしましょう。

あなたが混ぜたいのはどんな感じのモノかを、 イメージしてみてください。 例えば、 それが液体であれば「水みたい」なのか、 あるいは「お餅みたい」な粘りがあるか、 などです。 また、 それに加えて「粉物も一緒に混ぜたい」場合や、 「金魚鉢のプクプクのようにガスも混ぜたい」こともあるでしょう。

さらにもう一歩イメージを膨らませてみましょう。 混ぜる前と後で、 「混ぜたいモノ」はどう変化するでしょうか。 「反応が進むと急にネバネバになる」、 「粉が溶けるとシチューみたいになる」、 「空気を巻き込むとホイップクリームみたいになる」…想像できるでしょうか。 身近な物をイメージして考えてみると良いでしょう。
そして、 そのイメージを粘度、 密度、 濃度、 粒径、 ガス流量等々の数値へ変換できれば「混ぜたいモノ」の特性を測る物差しが生まれます。

混ぜたいモノの性格と変化を知る

混ぜたいモノの性格と変化を知る

しかし、 この「物差しを作ること」が、 現実では一番難しいのです。 特に食品・化粧品等の世界では、 「パティシエが泡立てたクリームの食感」や、 「なめらかな美容液の艶と触感」など、 作業者のスキル - つまり人間の官能に依存している部分がまだまだ多分に存在することも事実です。

ポイント3:
混ぜる環境を知ろう。 - 運転条件は?法規面の制限は?

最後は、 どんな環境で混ぜたいのか(=運転条件)を考えてみることにしましょう。 まずは、 「混ぜたいモノ」を混ぜるのに最適な液量と温度、 圧力です。 これによって、 容器(タンク)の仕様が決まってきます。
細かい話は後の章へ回しますが、 タンクが開放か密閉か、 内容物が漏れないための回転軸のシール機構はどのようにするか、 その工程を行うために必要なタンクの適用法規は何か、 などです。

物を混ぜる場合、 撹拌翼(パドル)の形状や性能が検討されることは数多くありますが、 もう一つ見逃してはならない重要なことがあります。 それは、 「混ぜたいモノ」の流れは「撹拌翼」と「容器の形状」と「インターナル(内部部品のこと。 邪魔板、 コイル等)」の組み合わせ・相互作用で決まるということです。

流れは翼と槽とインターナルの三位一体

流れは翼と槽とインターナルの三位一体!

つまり、 撹拌槽の性能を考える場合、 「どんな大きさの容器のどの高さに撹拌翼をセットして、 邪魔板・伝熱コイルはどの種類が必要か」をトータルで考える必要があるのです。 (イメージ参照)
撹拌翼と容器、 そしてインターナルは決して別物ではありません。 適用法規に則って安全を担保した、 高温・高圧下の構造設計が必要です。
撹拌機選定の際には、 「撹拌翼と撹拌槽とインターナルのトータル設計」すなわち「リアクターエンジニアリング力」が、 最も重要な要素だと言えるのです。

PageTop