Professionalism 品質とコストを両立する大型撹拌槽 ~ ワールドワイドな視点で取り組む製作の舞台裏 ~

01 品質とコストを両立する大型撹拌槽 品質とコストを両立する大型撹拌槽
ものづくり Craftsmanship

全世界で約2,000基の納入実績を持つ当社の撹拌槽ソリューション。 長年の取り組みの中で、 100m3を超えるような大型撹拌槽においても多くの製作実績を蓄積して参りました。 さらに2001年以降、 世界最大級の製作能力を持つ韓国や中国のパートナー企業との協業を推進することで、 重量が500トンに迫るような超大型サイズの撹拌槽の製作にも対応可能となり、 より多様なニーズにお応えできるようになりました。

この取り組みを主導したメンバーの一人である製造部の森に、 進化を続ける当社の「大型対応」の概要と、 それがお客様にもたらすメリットについて話を聞きました。

どんな大型の撹拌槽でも、
「できません」とは言いません。

どれくらいの大きさの撹拌槽だと、 「大型」と言えるのでしょうか。

個人的に印象深い例で言うと、 私が入社した1994年に最初に担当した仕事があります。 国内の化学メーカーさんの、 海外合弁工場向けの200m3クラスの撹拌槽です。 背の高い機器で、 直径4メートル、 全高25メートル、 重量にすると四百数十トンくらいのものでした。

まるで特撮やアニメに登場する巨大ロボットのようなサイズと重量ですね。

はい。 容量が100m3くらいになると我々も、 「おっ、 大きいな。 」と感じますね。 最初の仕事でしたし、 この案件は非常に印象に残っています。
撹拌槽の釜は、 ここ(愛媛県の西条工場)で製作しました。 かなり長くて大きな釜だったので数メートルごとに分割したパーツを作って、 機器の特性や製作しやすさを考えながら順番に全て繋ぎ合わせて。 なかなか大変な仕事でしたね。

この釜が個人的に印象深い理由がもう一つありまして、 私はこれと同型の釜をその後2回も製作しているんです。
2006年と、 2016年から2017年にかけてのことです。 お客様のプラントは世界各地にありますから納品先は異なるわけですが、 釜のスペックは基本的には同一のものでした。 ですが、 94年とその後の2回では、 決定的に違うことがあるんですよ。

それは何でしょうか。 森さんがご結婚されたとか、 そういうことではないですよね(笑)

違いますね(笑)。 実は、 最初の釜の製作は日本だったんですが、 その後の釜は韓国で製作したということです。 当社の設計担当が基本仕様を策定した以外は、 詳細設計から製作まで、 すべて韓国のパートナー企業に委託しています。

それが、 2001年から取り組みを始めた、 韓国での撹拌槽の製造委託ですね。
そもそも、 どういう経緯で海外での製造委託を開始したのでしょうか。

大型撹拌槽(約100m3)の一例。
上部に飛び出ているのは撹拌翼を回転させる駆動装置。 写真下の作業者との対比で、 その大きさは一目瞭然。

2000年までは、 国内で釜の製作を行っていました。 しかし先の事例にあるように、 90年代からちらほらと大きな釜のリクエストをいただくことが増えてきていました。 となると、 国内で製作できる工場は限られてきます。 撹拌槽は横にした状態で製作し、 ローラーの上に乗せて回転させながら作り上げていくのですが、 大重量の構造体を扱うには大規模な設備が必要になるのです。

そういうわけで、 94年に製作した釜は設備があるこの西条工場で対応することになったのですが、 当社の工場ではどうしてもコスト的に高くなってしまうのが課題でした。

そんな悩みがある中で、 当時の我々も体感していた世界的な流れとして、 設備の大型化があります。 釜ふたつで運転していた撹拌プロセスを釜ひとつにまとめるだけで、 配管も機器も大幅に削減できますし、 運転上・コスト上のメリットというものが非常に大きいんですね。

そこで、 我々は海外の圧力容器メーカーさんに目を付けたわけです。 当時の我々にとっては、 本当に新鮮でした。 「えっ。 こんな大きいものがこの値段で普通に作れるんだ。 」という。 その利点を最大限活用して、 撹拌装置として特別な仕様を持っているとはいえ圧力容器には変わりない撹拌槽の釜の製作ができないか、 検討を開始したのです。

結果として、 現在、 我々はどんな大型の釜のリクエストをいただいても、 「できません」とはまず言いません。 あの中国の工場ならできるかな?韓国のあの設備を少し改修してもらえば実現可能かもしれない。 そんな幅広い視点で、 なおかつできるだけコストを抑えて、 ベストなソリューションをご提案することが可能になったのです。

本当に「日本製の撹拌槽」がベストな選択ですか?

海外での製作となると、 当時はお客様からも懐疑的な声があったのではないでしょうか。

今でこそ、 韓国や中国で製作した釜を多くのお客様にお納めしていますが、 取り組み初期には様々なご意見やご心配の声をいただきました。
お客様だけではなく、 社内からも、 です。 本当にいろいろとありました(笑)。

もちろん海外と直接やり取りをしている我々も、 最初はカルチャーショックの連続でした。

届いた設計書を見て、 我々とあまりにも書き方が違うものだから「これは何の書類だろう?」とか、 実際に出来上がったモノを見ても「これ、 どうやったらこういう風に作れるんだろう?逆にすごい。 」とか。 材料一つとっても、 名称も規格番号もJISとは違うわけです。 「この516ってのは何や」ってね(笑)。

しかし、 そうした積み重ねがあるからこそ、 今の我々は海外規格ベースでも翻訳することなく、 SA240といったら「ああ、 アレね。 」という感じでパッと理解できるようになりました。 釜は海外で製作するわけで、 当然海外規格ベースで作っているわけです。 それを、 海外と同じ知識レベルで現地の人間と語り合えるようになっています。 現在当社は海外対応力を強みの一つとしていますが、 そういった努力があったからこそ、 今があるのだと思います。

海外での技術指導では、 どのようなことに気をつけていましたか?

撹拌槽は「立てるもの」

圧力容器と撹拌槽で大きく違うポイントは、 二つあります。
まず、 撹拌槽は内部を磨き上げないといけない、 ということです。 付着や汚れの低減のためには徹底的に鏡面にしないといけません。 特に苦労するのが大きい釜の場合で、 一度組み上げてしまうと反転したり転がしたりということが容易にできず、 作業者の手が届かずに作業がままならなくなってしまうんですよ。 ですから、 まずは組み立て前にそれぞれのパーツ単位で、 それこそボルト一本に至るまでピカピカにします。 もちろん、 磨いたボルトは組み上げたら組み傷が付きますし、 パーツを溶接すればそこには溶接痕が付きます。 そういったものは組み上げ後に、 あれこれと手を尽くして更に磨きをかけます。
韓国や中国のパートナー企業は、 普段はそういったことを考慮する必要のない圧力容器を作っているメーカーさんが主ですので、 「徹底的に磨き上げる」ということが具体的にどういうレベルかを理解してもらうのは、 本当に骨が折れました。

もう一点が、 撹拌槽は「作った後に立てるもの」だということです。
圧力容器は組み上げたら通常はそのままの向きで出荷までいきますが、 撹拌槽は90度引き起こして運転試験をしないと出荷できません。 これが大型撹拌槽の場合、 非常に難易度が高いのです。 何百トンという重量があり、 なおかつ長さのあるものを、 どうすれば安全に立てることができるのか。 その段取りも考えながら製作をしていく必要があるのです。 これは一朝一夕に対応できるものではありません。

これ以外にも、 細かいポイントを上げれば枚挙に暇がありませんが、 我々には数多くの大型構造物の製作実績があり、 そこで培ってきた豊富なノウハウがあります。 実際のところ、 エンジニアリング会社さんなども海外の設備メーカーを使って機器を製作するケースはあるのですが、 実際に工場を保有し、 製作技術を持つ当社だからこそ持ちうるノウハウを惜しみなく活用することで、 パートナー企業さんと信頼関係を築きながら課題を克服していくことが出来たと言えます。

また、 技術指導と言っても、 日本人同士でも伝わらないことってありますよね。 ましてや、 言葉も文化も異なる海外の人であればなおさらです。 ですから、 コミュニケーションという点では、 なるべく常識的な考え方や、 大学の教科書に載っているような機械工学の知識をベースに話をするように心掛けています。 時には奇抜な考えも必要ですが、 意見が食い違うような場合にはなかなか受け入れてもらえませんし、 次の展開を考える際にも、 その方がスムーズに運ぶことが多いですね。

このように16年に渡って、 我々は多くの困難を乗り越えてきました。 もう、 大概のことでは驚かないですよ(笑)。 ただ、 最も重要なことは、 当社で製作した釜とパートナー企業で製作した釜には絶対に違いがあってはならないということです。 それを実現するために、 我々は単純に製作を依頼する「外注先」としてではなく、 末永く付き合っていける真の「パートナー」として信頼関係を築き上げています。 製作開始時の打ち合わせや、 定期的なチェック・視察、 そして引き渡しまで綿密にコミュニケーションを取っていますので、 お客様にお納めするものには絶対の自信を持っています。

「日本製の釜じゃないとダメ」というお客様が、 依然としていらっしゃることは事実です。 しかし、 「Made in China」や「Made in Korea」がすなわち「安かろう悪かろう」ではないということは、 自信を持って言えます。 我々が長い期間をかけて数多くのノウハウを伝授し、 心を砕いて積み上げてきたその成果が、 海外で製作される釜そのものであるということを、 ぜひ皆さんにご理解いただければと思います。

お客様も、海外パートナーも、当社も。 Win-Win-Winになることが、より良い価値を生む。

今後、 当社の「大型対応」では、 どのようなチャレンジをしていくべきでしょうか。

我々が大型対応への取り組みを初めて16年。 お客様からご要望いただく機器は、 さらに大きく、 そして重くなっているように感じます。 そして、 大型機器のニーズの中心は明確に海外へとシフトしています。 我々の技術を用いて韓国や中国で製作された釜が、 その工場で撹拌機へと組み立てられ、 試運転し、 一度も日本の土を踏むこと無く直接海外のお客様の工場に納入されることが、 もはや当たり前になってきています。

これにはコスト面以外にも大変なメリットがあって、 海外で製作されたものが、 そのまま海外へ納品されるというのは物流の観点から非常にスマートですし、 また、 大型機器の輸送には運行制限などによる遅延や輸送中の事故など、 予期せぬ大きなリスクが潜んでいますのでそれも最小限に抑えることができます。 さらに言えば、 海外のお客様への納入時は貨物船を使いますが、 残念なことに近年では日本の国際港よりも韓国や中国の国際港の方が容易に配船できるという現実もあり、 納入スキームとして一切のムダがなく、 ベストマッチなのです。 こういった結果を考えると、 大型対応のために海外に目を向けるという当時の当社の選択は、 時流に非常にマッチしている選択だったということが言えるのではないでしょうか。 つまり、 「現在」の我々の大型対応という側面から見た強みは、 愛媛県の西条市の本社工場で培ったノウハウや技術をパートナー会社さんの能力を高めるために効果的に利用しながら、 お客様にとって価値のある製品を世に送り出している、 ということだと思います。

対して、 「今後」という観点では、 お客様のニーズがさらにコスト重視になってきたり、 さらに高いクオリティを求められたり、 ということが当然起こりうると思っていますし、 それになんとしても応えていかなければならないと考えています。 これまでの海外パートナーさんとのお付き合いのノウハウを活かして、 例えば中国の内陸に存在するであろう価格競争力の高い「次」のパートナー会社さんを見つけ出さなければならないですし、 今現在パートナーとして付き合っている会社さんにさらにレベルの高いアウトプットをしていただくために、 より積極的に彼らの能力を高める努力をしていかないといけないと思います。

これは常々考えているのですが、 三方よしとでもいうのでしょうか。 お客様には「住友に頼めば難しい課題も何とかできるかもしれない」という安心感を。 パートナー会社さんには、 技術的な向上の機会とビジネスチャンスを。 当社はパートナー会社さんの設備や力を使って、 より規模の大きい案件や新規の案件の受注を、 というように、 Win - Win - Winで今後もやっていければと思いますし、 この関係性をより広げていくことで、 当社の事業機会は無限に広げられると確信しています。 お互いを尊敬し、 尊重し合い、 長く続くビジネス。 三方よしで、 当社の大型対応力がさらに充実していくように、 今後もチャレンジをしていきたいと思います。

当社のプロフェッショナル

森 祐二

製造部 調達グループ グループリーダー

1994年入社。 香川県出身。
学生時代に生産機械工学を専攻。 入社後は生産技術、 国内外パートナーへの技術指導、 顧客現地での据付/修理指導など、 一貫して撹拌機・撹拌槽を中心とした装置製造の現場に携わる。
現在は、 長年の国内外工場・パートナー企業との折衝経験を活かし、 調達グループのリーダーとして、 業務に取り組んでいる。

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